佐々木大蔵、16年のキャリアかけた稲垣柊戦への思い「ここを崩さないと先に進めない」=2.9K-1MAX代々木第二
稲垣は、幼少の頃から兄・澪とともに極真空手を学び、新空手の大会へ出場。19年9月のプロデビュー戦で山下和希から1RKO勝ち。23年1月に東本央貴、4月のKrushスーパーライト級トーナメントで寺島輝、塚本拓真をKOで下して同王座を獲得した。11月に小嶋瑠久を破って同王座防衛に成功。24年4月は「K-1✕Krushスーパー・ライト級4対4マッチ」で元K-1ライト級王者の林健太を破り、11連勝となった。24年9月の第7代K-1 WORLD GPスーパー・ライト級王座決定トーナメントでは、一回戦でレニー・ブラジをKO。準決勝ではトーマス・アギーレを撃破。決勝はヨードクンポン・ウィラサクレックに敗れ、K-1王者まであと一歩だった。
「正直、なんで自分がリザーブなんだという気持ちはありました。でも、齋藤選手はRISEとの対抗戦で激闘を制したこともありましたし、試合に集中するようにしていました。後は、なるようになるという精神でしたね。これも試練の一つなのかなと、結果で見返してやろうという感じでした」
――モチベーションの保ち方が難しい試合だと思いました。
「格闘技をやっていること自体がモチベーションなので、試合があるのが当たり前ではなく、常に自分を高めて行こうと思っています」
――佐々木選手は、我が道を行く侍という印象があります。あまりSNSとかでアピールはしないですね。
「今の時代は、やった方がいいのかなと迷うことはあります。でも、自分が変なアピールをし始めたら、なんかやっているのではないかと心配されてしまいますよ(苦笑)」
――自分は、あえてやらないと。
「あえてというか、いろいろなアピールのやり方があるので否定はしませんけど、自分は格闘技をすることが生きがいであり、人生そのもの。そこはブレないし、格闘技に対する向き合い方の熱量は誰にも負けていないと思っています」
――その熱量を、みんなが試合前に知りたいのだと思います。
「分かりました。そこは、少しずつ伝えていきます」
――ちなみに、K-1-65kgトーナメントのリザーバーに甘んじた悔しさを教えてください。
「そこを突っ込んでくるんですね(笑)。そうですね、自分はKrushの綱引きマッチに出ましたが、あれはK-1-65kgトーナメントの査定試合だと思っていました。その試合では、なかなかKOしない自分が寺島輝選手を倒してアピールできたと。そうしたら、リザーブマッチに組まれていました。でも、悔しさを出させようとしているのかなとか、それには乗らないとか葛藤があって(笑)」
――気持ちを隠していたんですね。
「出さないようにしていました。出したら負けのような気がして(笑)」
――出してもいいと思います。
「それで言ったら、今回のタイトルマッチはおかしくないですか?」
「最初に聞いた時は、何かの間違い?と思いました」
――鈴木選手はトーナメント一回戦敗退。しかも佐々木選手は、過去に2回、鈴木選手に勝っています。
「過去は過去だと飲み込んでいましたが、記者会見で並んだ時は“なんで?”とずっと思っていました。でも稲垣柊選手との対戦が決まっていたので、切り替えるようにしていました。感情に振り回されて足をすくわれた経験も過去にあるので、そうならないようにしていました」
――トーナメント本戦を見て、どんな印象を持ちましたか?
「自分が出ていたら結果は変わったと思うので、そんな気持ちで見ていました。ヨードクンポン選手が優勝した時は、待ってろという感じでしたね」
――ヨードクンポン選手は、どんな印象ですか?
「強いなというかゲーオ選手やゴンナパー選手とは違うタイプで、勢いがあるなと思いました。でも自分が戦うならば、こうしようとかは思っていました」
――今回、対戦する稲垣選手はいかがでしたか?
「トーナメントだったため、決勝までのダメージの差があったように見えました」
――稲垣選手とは、今回が初対戦になります。どんなイメージですか?
「格闘技との向き合い方がマジメで、技のスキル、駆け引き、試行錯誤しているのが垣間見えますね」
――稲垣選手は、5年前にK-1の職員だった頃、裏方で選手出しをしている時に佐々木選手もいて感慨深いと。その頃に会っていたようですが。
「まったく覚えていないです(笑)。でも稲垣選手とスパーリングした時があって、その時の写真と5年前のスタッフ時代の写真を見て、時代の移り変わりを実感しました」
――スパーリングはいつですか?
「白鳥大珠戦の前です(23年3月)」
――どんな経緯で、スパーリングをしたのでしょうか?
「K-1大宮ジムの選手がクレストで練習することがあって、ちょうど稲垣選手は白鳥選手と同じくらいの身長だったのでスパーリングをしました。パンチのみでしたけど、格闘技に対する向き合い方の強さを感じました」
――稲垣選手の分析は。
「ある程度はしますけど、そこまで徹底することはないですね。その時の会場の雰囲気とか、相手があってのことなので試合は何があるか分からない。そこまで突き詰めてやることはしないです。相手がどうこうではなく、自分がその瞬間にどれだけ出せるかが鍵なのかなと思っています」
――今回の試合の位置づけをどう見ていますか?
「タイトル挑戦権をかけた試合ですね。ここを勝った方が、タイトルに挑戦できるという前哨戦。誰がどう見ても挑戦すべきだという説得力のある試合をしたいです」
――ミスター・パーフェクトを崩せそうですか?
「ここを崩さないと先に進めないですね」
――デビューして16年、稲垣選手より優っているところは?
「やはり経験値ですね。こうした考え方、スタイル、生き方ができるのは、これまでの経験値があるからです。練習への向き合い方、減量、会場に入る時、試合中、すべてにおいてブレない強さがあります。元々ビビりなので(笑)」
――ビビりなんですか?それを乗り越えられたキッカケは。
「いろいろ経験をしていますからね。練習中のスパーリングで喉仏がズレてしまったこともありました」
――喉仏がズレる?
「はい。パンチを喉にもらって、痛いな声が出にくいなと思って次の日の練習中に鏡を見たら、喉仏が横にズレて出っ張っているのが分かって。検査したら喉の骨が折れていました。奇遇にも、鈴木勇人戦の前だったんですけど(19年11月)、手術で治して勝ちました」
――そんな経験をしながら、今もなお格闘技をやっている原動力は何ですか?
「家族もそうですし、格闘技で人生が変わりました。元々、中学生の時にイジメにあって、真っ暗な世界に格闘技と出会って光りが差し込んできました。あの時のことを忘れられません。格闘技を嫌いになることはありませんし、辞めようと思ったこともありません。そのくらいの覚悟で臨んだ試合もありましたけど、どんなに厳しいトレーニングがあっても楽しいですね。まだ成長していることを感じていますし、自分は町田でジムを開いていますので指導していることで勉強になっています」
――気になっていたのですが、喉が潰れて声を出しにくいように聞こえますが、喉仏がズレてしまった影響ですか?
「いえ、指導で大きい声を出し過ぎて、天龍源一郎さんみたいになっています(笑)」
――では、最後に意気込みをお願いします。
「K-1のベルトは、あと一歩で逃してしまった過去がありますので、今回の稲垣戦で勝利してタイトルマッチへつなぎ、今度こそベルトを手に入れたいです」