“ミスター・パーフェクト”稲垣柊、佐々木大蔵戦へ覚悟「1試合で5試合分の経験値を得られそう」=2.9K-1MAX代々木第二
稲垣は、幼少の頃から兄・澪とともに極真空手を学び、新空手の大会へ出場。23年4月のKrushスーパーライト級トーナメントで寺島輝、塚本拓真をKOで下して同王座を獲得した。24年4月は元K-1ライト級王者の林健太を破り、11連勝。24年9月の第7代K-1 WORLD GPスーパー・ライト級王座決定トーナメントでは、一回戦でレニー・ブラジをKO。準決勝ではトーマス・アギーレを撃破。決勝はヨードクンポン・ウィラサクレックに敗れ、K-1王者まであと一歩だった。
佐々木は16年の第4代Krushライト級王座決定トーナメントを制して同王座を獲得。18年4月にゴンナパー・ウィラサクレックに敗れて同王座を失いスーパー・ライト級に転向。20年2月は鈴木勇人とタイトルマッチで勝利し、Krushスーパー・ライト級王座獲得。9月は大和哲也の持つK-1スーパー・ライト級王座に挑戦し惜敗。23年3月、K-1×RISE対抗戦で白鳥大珠と対戦するも判定負け。24年4月の寺島輝戦はKO勝ちを収めた。9月は齋藤紘也を判定で下し、12月は塚本拓真を破り3連勝となった。
「今までの中で一番、スリルがありました。これまで戦った中で一番強かったこともありましたし、楽しかったです」
――相手が強かったことが楽しかったと。
「はい。トーナメントの中で一番強いと思っていましたので、かなり研究して臨みました。ひたすら反復練習しました」
――思い通りに戦えたわけですか。
「僕は相手を強くイメージして戦うので、それ以上のことはなかったです。ブラジ選手を倒した飛びヒザ蹴りも、練習していた技のひとつでした」
――ディフェンスも含めて、的確に攻撃を与えている印象でした。
「すべて思い描いていた通りの試合内容になりました。そこまで作り込んでいたので」
――準決勝のアギーレ戦も同様ですか?
「じつは準決勝、決勝とすべて逆の選手が勝つと思っていました。予想と逆になったので、急遽その場で作戦を練ることになったんです」
――アギーレ選手は、中国のメン・ガオフォン選手に勝ちました。
「ええ、ガオフォン選手の対策をひたすらやってきましたので、負けた時は驚きましたね。でも、まったくアギーレ選手を見てなかったわけではないので大丈夫でした」
――実際にアギーレ選手と戦っていかがでしたか?
「見ている人では分からない、対戦した人しか分からないような強さがありました。前回対戦した大岩龍矢選手は、そうとうアギーレ選手が強かったと言うと思います」
――何が強かったのでしょうか。
「まずタフでした。ヒザ蹴りを顔面に当てても倒れなかったですし。外国人は気持ちが折れる選手が多いんですけど、アギーレ選手は攻撃が入って声がもれていたにも関わらず前へ出てきて。この選手は、対戦してみないと強さが分からないタイプだなと思いました」
――外国人のトップ選手は、攻撃を効かされても巻き返すことが多いです。そうした傾向は、どう分析していますか?
「もともとの身体の強さもあるでしょうけど、この試合に負けたら生きていけないという環境で戦ってきたのかなと思います。背負っているものの大きさというか。育ってきた環境も大きく左右するのかなと。僕も決して裕福な家庭で育ってきたわけではないので、そういう意味では負けたくないという気持ちは人一倍強いと思います」
「自分はまだそこまで追い込まれたことがないんですけど、絶対に自分から折れない自信があります。ただ、そこまで追い込まれないよう完璧に準備をして臨んでいます」
――さすがは、ミスター・パーフェクトです。決勝のヨードクンポン戦は、いかがでしたか?
「正直、決勝へ上がってくるとは思わなかったんですけど、初めてタイの選手と対戦してみて、なぜか相手のペースになっているという感じでした。ヨードクンポン選手は、一回戦、準決勝とKO勝ちで上がってきましたが、たまたまパンチが当たっただけかなと。強いのはもちろんですけど、怖さはなかったです」
――何がうまかったですか?
「アギーレ選手と同じ感じで効いた攻撃もあったと思うんですけど、逆にラッシュをかけてきて印象を悪く見せないとか。終盤に攻撃をまとめてきて、ポイントを奪うところはキャリアに裏付けされたうまさを感じました。攻撃力もヨードクンポン選手にパワーを感じ、これをもらったらヤバイなと試合中に初めて思いました」
――今大会では、ヨードクンポン選手と鈴木勇人選手のタイトルマッチが組まれました。
「正直、悔しい気持ちがあります。何で?と言うのもありますけど、今回の相手は佐々木大蔵選手なので、次の挑戦者は自分が相応しいということを証明したいと思っています」
――稲垣選手はK-1のスタッフとして働いていた時代に、佐々木選手がすでにトップ戦線で戦っていたと話していました。どんな存在なのでしょうか。
「当時は、芸能人を見るかのように思っていた選手の一人ですね。まさか5年経って、同じ舞台で戦うとは思ってもいなかったです。それと同時に、俺はこんなところで終わる存在じゃないぞという意識でいます」
――ファイターの印象は。
「変わらずにテクニシャンで、うまいという感じです。ヨードクンポン選手にも似ているんですけど、ベテラン選手なので後半に自分のペースに引き寄せるのがうまいですね。それをやられたら判定で持っていかれる可能性もあるので、自分を貫くことをテーマにしています。もちろん、相手の研究はしっかりやっていきます」
――言える範囲で、穴とかは見えているのでしょうか?
「良くも悪くも、堅実的な試合をする選手。勝つ時は完璧な試合運びをしますが、負ける時はもう少し頑張れば勝てたのにという場面も見てきました。僕の中では何パターンか展開を想定していますので、自分のペースで戦えば勝てると思っています」
――怖さは?
「大蔵選手もアギーレ選手と同じで、実際にやってみないと分からない強さがあると思っています。そこですかね、怖さは。今回の大蔵選手との試合で、1試合で5試合分の経験値を得られるくらいの試合になると思っています。そのくらい大蔵選手は強いです」
――佐々木選手は、前回のトーナメントでリザーバーに甘んじた悔しさがあったと思いますので、かなり強い気持ちでこの試合に臨んでくるはずです。
「たしかに、ここを勝てばタイトルが近づく可能性が高くなりますので、それは僕も同じです。これまでは自分一人で戦ってきた感じだったんですけど、家族がいますし、大宮ジムを引っ張っていく立場にいます。後輩のために背中を見せるではないですけど、背負うものは自分も大きいです」
――練習が辛い時は、どうやって乗り越えているのでしょうか?
「苦しいとかは思わないです。単純にキックボクシングが大好きだからやっているので。試合当日も、今日もキックができる喜びがあるんですよ、不思議なんですけど。大好きなキックで生活ができているのが、本当に幸せだなと思っています」
――怖さはない?
「試合へ向けての準備が完璧にできるのが1週間前なんですけど、それまではめちゃくちゃ怖いです。その怖さを克服するために、そこへ向かって準備している研ぎ澄まされた瞬間が楽しいです」
――稲垣選手は、ミスター・パーフェクトのイメージですが、まだ足りないですか?
「打たれずに打つという自分のスタイルができつつありますけど、世界チャンピオンになっても強くなりたいという欲は達成されないと思います。本当に誰もが認める世界最強にならない限りは、満たされない気がします」