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「K'FESTA.6」3.12(日)代々木<特別コラム>K-1のエースは苦戦が予想される時ほど凄まじい試合をして勝つ――軍司泰斗、K-1を背負うエースの証明なるか

 3月12日(日)東京・国立代々木競技場 第一体育館「K-1 WORLD GP 2023 JAPAN ~K'FESTA.6~」。今大会に向けた特別コラムを連日配信します。今回は「K-1 AWARDS 2022」MVP&フェザー級王者・軍司泰斗vs挑戦者ヴュー・ペッコウーソン編を公開!(文:橋本宗洋)

 昨年のK-1年間表彰式『K-1 AWARDS 2022』でMVPを受賞したのは、軍司泰斗だった。2021年12月にK-1フェザー級チャンピオンになると、2022年は全勝。8月K-1福岡大会でのフェザー級世界最強決定トーナメントでは3試合中2試合がKO、インパクトのある優勝劇を見せた。

 公式戦と同じくらい印象深いのは、2月K-1東京体育館大会で行われた武尊とのエキシビションマッチだ。これは6月に那須川天心との大一番を控えた武尊のための、調整という意味が大きいもの。その相手に選ばれた軍司は、持ち前のスピードを活かしつつ真っ向からの打ち合いを展開してみせた。

 軍司も武尊に負けないくらい強いんじゃないか。観客にそう思わせるだけの闘いぶりを見せた軍司。同時にこのエキシビションは“継承”の儀式のようにも見えた。これまでK-1を引っ張ってきた武尊が、K-1の枠を超えた試合に打って出る。軍司はいわば送り出す立場であり、武尊がこれまで築いてきたものを受け取るために拳を交えたとも言える。

 実際その後の活躍で、軍司は“K-1を継ぐもの”としての資格が充分にあることを示したと言っていいだろう。歴史を振り返れば、K-1はヘビー級GPから始まっている。そこに登場した魔裟斗が「これからは俺の時代です」と宣言して中量級を確立。さらに新生K-1になって武尊が軽量級を牽引した。

 エースが時代を作り、開拓し、その周囲で個性的なファイターたちが輝く。そんなK-1の、新時代のエース候補が軍司なのだ。もちろん、今のK-1には実力のある若い選手がひしめいており、軍司1人が背負うような状況ではない。だが軍司はMVP獲得によって、エース争いから一歩抜きん出たと言える。

 そしてMVPファイター、新時代のエース候補筆頭として迎える2023年の初戦が、“K-1年間最大のビッグマッチ”「K'FESTA.6」でのフェザー級王座防衛戦だ。

 挑戦者はタイのヴュー・ペッコウーソン。プロ約80戦の中でオムノーイスタジアム、プロムエタイ協会、BBTVのタイトルを獲得。いわばムエタイの最前線で活躍してきたことになる。またボクシングでもアマチュアでタイ選手権2連覇を達成しているという。

 しかもこのヴュー、単なる“ムエタイの強豪”というわけではない。K-1初参戦にあたってのインタビューで、ヴューは自分自身を「フィームー」だと語っている。フィームーとはテクニシャンタイプ。ボクシングでいえばアウトボクサーで、アグレッシブにパンチで倒しにいくスタイルとは正反対だ。相手の持ち味を潰すことに長けているとも言える。

 さらに踏み込んでいえば、K-1的な意味での“面白い”試合になりにくい曲者。最悪の場合、軍司が攻撃力を殺され、スカされ、噛み合わないままポイントを奪われるということにもなりかねない。軍司が勝ったとしても、納得のいく、観客が満足できる試合になるかどうかは分からない。勝ちはしたものの不満げな表情を見せるというのは“vsムエタイあるある”だ。

 もちろん、K-1はスポーツだからまず勝つことが大切だ。ヴューは勝つこと自体、大変な相手でもある。ただK-1のチャンピオンとして、エース候補としては“その先”の試合が求められる。間違いなく、ファンは勝ち負け“だけ”を見ているわけではないのだ。

 勝つだけではなくいかに闘うか、どう勝つか。ファンはそこに期待している。魔裟斗や武尊は、その期待=高いハードルを常に乗り越えてきた。“ここで勝たなくては先が見えない”という試合に勝ち、プレッシャーのかかる試合ほど強烈な勝ちっぷりでファンを魅了した。

 たとえば魔裟斗。K-1中量級最初のイベントでは、ルンピニー王者にもなった世界的ビッグネーム、ムラッド・サリをKO。第1回日本トーナメントではライバルの小比類巻貴之を下した。世界トーナメントでは、前年に敗れたアルバート・クラウスを倒して優勝している。

 ここぞという試合で勝つ。それもドラマチックに勝つ。それが魔裟斗だった。武尊も同じだ。新生K-1初開催での大雅戦はバックブローで逆転KO。対抗馬がどれだけ出てきても、海外から強豪が来ても倒し続けた。最強の挑戦者とも言えるレオナ・ペタス戦は「負けたら天心戦もできなくなる」というプレッシャーの中で大爆発。

 K-1の歴代エースは、苦戦が予想される時ほど凄まじい試合をして、自身の存在を特別なものにしてきた。今回、軍司が問われるのもそこだ。難敵を迎えてどんな試合をするのか。「やっぱり難しい相手だったか」で終わってしまうのか、それとも特別な何かを見せるのか。

 それは軍司自身、大いに意識しているところだ。武尊とのエキシビションを経験して「いろんなものを感じ取ったし、これから僕が引っ張っていかなきゃいけないのかなというのを感じました」と語った軍司。「MVPをもらって期待されている部分はあると思うし、プレッシャーはありますが、それにふさわしい試合をするつもりです」とも。ヴューに関しては「噛み合わない相手でも倒して勝ちます」、「K-1らしい試合がしたい」と強気だ。自分の立場、課せられた役割に自覚的だからだろう。

 輝かしいタイトル歴を持つ軍司だが、キャリアは決して順風満帆ではなかった。2016年にK-1甲子園優勝、翌年にKrushバンタム級王座獲得を果たすも、スーパー・バンタム級では戴冠ならず。ケガによる欠場も。K-1王座獲得はKrush戴冠の4年後だ。

 早熟に思われた才能に、何度も悔しさを味わうという経験が加わって、今の“K-1王者・軍司泰斗”がある。怖いものなしで勝ち続けたわけではない。だからこそ軍司の強さには“筋金”が入っているのではないか。

 曲者のムエタイ戦士に苦しめられ、ペースを奪われかけた時、その“筋金”がチャンピオンを救うはずだ。ヴューは簡単な相手ではない。だからこそ“エースの証明”にうってつけの相手だとも言える。
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